FEH本編シナリオ終了後を想像して書いていくアルフォンス×フィヨルム中編小説シリーズ。プロローグ、エピローグ含めて全5話を予定しています。
タイトル元ネタはSEKAI NO OWARIの楽曲からです。

【スノーマジックファンタジー プロローグ】

「お父様からいただいたティアラ。お母様からいただいたイヤリング。それと……」

 冷えた地面に宝物を並べていく。
 どれも大切な人達からいただいた、大切な宝物。
 これを見れば私は私を忘れない。
 私の身体。私の心が失われても……。

「えっ……無い……?」

 けれど一つ。見当たらないものがあった。
 大好きな人から貰った、大好きな髪飾りが……。

「そん……な……」

 あれを見て、私はあの人のことを思い出しながらこれから生きていくはずだった。
 何百何千という悠久の時間を、あの人から貰った髪飾りと共に……。

「アルフォンス王子……!」

 もう二度と会わないと誓ったその人の名を呼び、私は哭いた。


 「お兄様。本当に、今フィヨルム王女を探しに行かれるのですか? 一ヶ月後には戴冠式なんですよ」
「だから行くんじゃないか。今が自由に動ける最後の時なんだ」

 九つの世界と数多の異界を巻き込んだ大戦が終結してから一年。
 戴冠式を控えたアスクの王太子アルフォンスは、先の戦いの最中に忽然と姿を消したフィヨルムを探しに、一人ニフル王国へと旅立とうとしていた。
「フィヨルム王女はニフルにいるはずなんだ……」
 そう言ってアルフォンスは、手のひらに乗せたアスク王国の紋章を象った金色の髪飾りを見る。
 この髪飾りは、アルフォンスが特務機関の買い出しで訪れた店で買い物のオマケとしてもらった髪飾り。
 自分が付けるわけにもいかないのでどうしようかとアルフォンスが悩んでいたところに、同行していたフィヨルムが「良かったら私がいただいてもよろしいでしょうか」と訊いてきたので、プレゼントとして贈ったのだ。
 一国の王女が付けるには少々粗末な髪飾りだったが、それを気に入ったフィヨルムは以来ずっとアスクの紋章の髪飾りを身に付けていた。
 自分が持っていた装飾品はティアラとイヤリング以外、ニフルの王都がムスペル軍の手に落ちた際にすべて燃やされてしまったからとても嬉しいと言って喜んでいた。宝物だと言ってくれた。
 その髪飾りが、ニフル王国へ繋がる扉の前に落ちていたのだ。
 フィヨルムの身に何かが起こり、髪飾りが落ちたことにも気づかぬままニフル王国に向かったと考えて間違いないだろう。
 
「なら私も一緒に行くわ。さすがに王太子一人で行かせるわけにはいかないもの。
 こんな時にエクラが居てくれたら良かったんだけどね……」
 アルフォンスは次のアスク国王。旅の最中に何かあってはそれこそアスク王国の存亡に関わることだ。
 先の戦いの間、アルフォンスの隣で戦い続けた召喚師エクラが居てくれたら彼に同行を頼むのだが、エクラも戦いが終わってすぐに元の世界へ帰還している。となると自分がついていくしかない。
 そう考えたアンナはアルフォンスに旅の同行を申し出るが、アルフォンスは首を左右に振った。
「ありがとうございます、アンナ隊長。
 でも、一人で旅立つぐらいの覚悟を見せなければ、フリーズ王は口をつぐんだままでしょう。
 エクラもそう考えていました。フィヨルムを探しに行くなら一人で行けよと……そう言われているんです」
 フィヨルムの行方に関して唯一心当たりがありそうなのが彼女の兄であるニフル国王フリーズなのだが、正面から聞きに行って教えてくれるような人物ならとっくの昔に教えてくれている。
 ニフルの兄妹が揃って何も言わないのだとすると、そう簡単に口に出来ないような事態がフィヨルムの身に起きたということだ。
 それ相応の覚悟を見せなければ、フリーズは何も教えてはくれないだろう。
 エクラもそう助言を言い残して元の世界に帰っている。
「それに僕は、一人でフィヨルム王女を探しに行きたいんです。 
 王女を……フィヨルムを見つけたその時に伝えたいことがありますから……」
 戦いが終わったら、フィヨルムに伝えたいと思っていたことがあった。
 胸に秘めていら大切な想い……それはフィヨルムは姿を消してからも消えることなくアルフォンスの胸を暖め続けている。
 これはそれを伝えに行く旅でもあるのだ。上司連れではしまらない。
「そっか……なら分かったわ。ヘンリエッテ様や城の皆には王子は花嫁を探しに行ったと伝えておくから、心置きなく行って、フィヨルム王女と二人で帰ってきなさい。
 これが貴方の上官としての、最後の命令よ」
「はい。必ず二人で戻ってきます、アンナ隊長……。
 シャロン。僕が帰ってくるまで、国と母上のことをよろしく頼むよ」
「おまかせください、お兄様!」
「じゃあ、行ってくる」

 そうしてアルフォンスは、荒れ狂う吹雪の中へと一人進んでいく。
 アルフォンスの右手にはしっかりと、金の髪飾りが握られていた……。