FEH設定のクロムとジェロームのSS。
クロム×スミア。ジェローム×シンシア前提。
支援会話Aの場面で語り合う男二人の話です。
クロム×スミア。ジェローム×シンシア前提。
支援会話Aの場面で語り合う男二人の話です。
【太陽は空に昇る】
名も無き小さな森の中。ひとつの焚き火を挟んで向かい合う二人の男がいた。
二人は何を語り合うのでもなく、ただ無言で燃え盛る炎を見つめている。
バチバチと薪がはぜる音だけが響く空間の中で、鉄仮面の竜騎士ジェロームはこう思っていた。
(気まずい……)
仮面を被っているため表情は表に出ていないが、無表情な鉄仮面の中では冷や汗がたらりと垂れている。
それもそのはず。
今焚き火を挟んだ向かい側にいるのは聖王クロム。彼の恋人であるシンシアの父親なのだから……。
恋人の父親という存在は男の身からしてみたら一番の難敵。武力ではどうにも出来ない存在だ。
そんな存在と二人きりで向かい合っているのは、シンシアの実の姉であるルキナの采配だ。
ジェロームが特務機関ヴァイス・ブレイブに招かれ、召喚師に最初に紹介されたのがルキナだった。
自分とルキナ以外の仲間は、この世界にはまだ来ていないらしい。
仲間と似た風貌の者は幾人かいたが……。
ジェロームと妹のシンシアが恋人関係にあることを知っていて、それを歓迎しているルキナは、そこであることを提案した。
「そうだ、ジェローム。シンシアがこちらの世界に来る前に、貴方とお父様が仲良くなっておいて、シンシアをビックリさせてはいかがでしょう!」
「はぁ?」
ルキナは何を言っているのかと、ジェロームは思った。
自分が知らない間に、知らない世界で恋人と父親が仲良くなっていたら、それは誰だって驚くだろう。
だが、二人の間に立つべき人物がいない中で会話をしても、盛り上がるものなのか?
そう疑問に思うジェロームを尻目に、ルキナはグイグイと話を押し進め、ジェロームはクロムと組んで戦うことになってしまった。
この世界に先に来ていたクロムにルキナが、
「こちらはジェローム。シンシアの恋人なんですよ!」
と、紹介された時のクロムの凍りついた表情は忘れられない。
心の準備が整っていないまま紹介されては、クロムは何も言えないだろう。
それはジェロームの方も同じで、ろくに会話を交わせぬまま今に至っている。
(何を話したら良いのか……)
空気の重さから逃れるかのように、ジェロームは地面に落ちていた小枝を焚き火の中へ放り込んでいく。
クロムも同じく小枝をポイポイと焚き火に放り込む。
お互いポイポイと小枝を投げ入れているうちに、手の届く範囲にある小枝はすべて焚き火の中へ消えてしまった。
『…………』
本格的に何もやることがなくなった二人の間を、沈黙だけが支配する。
それを破ったのは、クロムの方からだった。
「ジェローム……」
「は、はい!」
クロムの声に、ジェロームは思わず背筋を正して返事をした。
普段のジェロームしか知らない者が見たら驚きそうなぐらいかしこまった態度だが、恋人の父親と会話をする男としてはこれぐらいが普通だろう。
緊張した様子のジェロームに、ムスッとしたままのクロムが訊ねる。
「お前はシンシアのどんなところに惹かれたんだ」
「はっ……? えっ……!? シンシアのどこに……ですか……」
思ってもみなかった質問に、ジェロームは戸惑うしかない。
生死を共にした仲間にさえ言えないようなことを、まさかクロムから訊かれるとは……。
しかし父親としては知っておきたいところなのだろう。
娘の恋人が、娘のどこに惹かれたのかを……。
(すべて……とは言えんな)
ジェロームはシンシアのすべてに惹かれているが、それを答えとして言いたくはなかった。
愛する人のすべてが好き。
それは答えになっているようでなっていない答えだ。
すべてが好きという言葉は、相手が誰であっても言えてしまう言葉だから。
そんな曖昧な答えでこの場を濁すのは、目の前にいる男がシンシアの恋人としてふさわしい男か見極めようとしているクロムの視線から逃げているような気がする。
だからジェロームは、ハッキリとシンシアだけにしか感じなかった大きな魅力をひとつ口にした。
「……太陽のようなところです」
「太陽?」
その言葉に、クロムの眉がピクリと動く。
もしかしたらそれはクロムにとって気に入らない答えだったかもしれないが、そんなことはこの際もうどうでも良い。
自分がシンシアの太陽のような明るさに惹かれたのは、紛れもない事実なのだから。
「はい。シンシアの明るさは、昼と夜の区別が付かないような絶望の世界の中において、太陽としか言えないものでした。
シンシアの明るさに、皆が支えられていました。もちろん私も……。
あまりにも眩しすぎて、シンシアのように輝けない自分と比べてしまい、目を逸らしたくなるときもありましたが、今はシンシアの隣に居ても恥ずかしくないような男になりたいと……そう思っています」
幼い頃のジェロームは、高所恐怖症で飛竜に乗ることが出来なかった。
それを克服させたのがシンシアだ。
高いところが怖い。飛竜なんかに乗りたくないと泣き叫ぶジェロームに、シンシアは根気強く付き合ってくれた。
あの頃からシンシアはジェロームの憧れで、太陽で、ヒーローで、そんな彼女の隣に立つにふさわしいヒーローに自分もなりたいと願うようになっていた。
「そうか。太陽のようなところに惹かれたか……」
ジェロームの言葉をすべて聞いたクロムが、少し頬を緩ませる。
そして小さく微笑みながら、向かい合う男にこう言った。
「実は俺もな。スミアの……シンシアの母親の太陽のようなところに惹かれたんだ」
クロムのその言葉に、場の空気が和らぐのをジェロームは感じた。
空気と同じぐらい柔らかな表情を浮かべながら、クロムがジェロームに話していく。
「シンシアのような眩い明るさとはまた違うが、スミアも太陽のように暖かなやつでな……。春の日差しのようなあいつの優しさに、俺はいつも安らぎを感じていた。スミアは俺の太陽なんだ……」
「そうなんですね……」
まるで目の前にスミアその人がいるかのように語るクロムの表情は、とても優しい。
その優しい表情をジェロームに向け、クロムはしっかりとこう言った。
「だから俺はこう考えている。
愛した女を太陽と呼べる男は、信頼に値すると」
「聖王陛下……!」
クロムのその言葉は、ジェロームを娘の恋人として認めたことを示していた。
「あ……ありが……」
「今は礼はいい」
自分を認めてくれたことの礼を言おうとしたジェロームの言葉を、クロムが首を振って遮る。
「礼ならシンシアから君のことを紹介された時に言ってくれ。いつになるかは分からんがな」
この世界に誰がいつ来るのか。その法則は未だ解明されていない。
クロムの妻であるスミアでさえ、召喚されていないのだ。
娘のシンシアの召喚がいつになるのか検討もつかない。
戦いが続く世界に召喚されることが果たして幸せなのかと思ときもあるが、やはりこの世界でも己の太陽の傍にいたいと願ってしまうのだ。
「大丈夫です。いつか必ず出会えると、私は信じています。
どのような世界にも、太陽はあるのですから……」
「そうだな……」
二人はこの世界に招かれてから、様々な世界で戦ってきた。
その中のどんな世界でも、空に太陽は輝いていた。
だからクロムはスミアに。ジェロームはシンシアに。いつか必ず出会えるだろう。
どれだけ長い夜が続こうと、太陽は空に必ず昇るのだから……。
名も無き小さな森の中。ひとつの焚き火を挟んで向かい合う二人の男がいた。
二人は何を語り合うのでもなく、ただ無言で燃え盛る炎を見つめている。
バチバチと薪がはぜる音だけが響く空間の中で、鉄仮面の竜騎士ジェロームはこう思っていた。
(気まずい……)
仮面を被っているため表情は表に出ていないが、無表情な鉄仮面の中では冷や汗がたらりと垂れている。
それもそのはず。
今焚き火を挟んだ向かい側にいるのは聖王クロム。彼の恋人であるシンシアの父親なのだから……。
恋人の父親という存在は男の身からしてみたら一番の難敵。武力ではどうにも出来ない存在だ。
そんな存在と二人きりで向かい合っているのは、シンシアの実の姉であるルキナの采配だ。
ジェロームが特務機関ヴァイス・ブレイブに招かれ、召喚師に最初に紹介されたのがルキナだった。
自分とルキナ以外の仲間は、この世界にはまだ来ていないらしい。
仲間と似た風貌の者は幾人かいたが……。
ジェロームと妹のシンシアが恋人関係にあることを知っていて、それを歓迎しているルキナは、そこであることを提案した。
「そうだ、ジェローム。シンシアがこちらの世界に来る前に、貴方とお父様が仲良くなっておいて、シンシアをビックリさせてはいかがでしょう!」
「はぁ?」
ルキナは何を言っているのかと、ジェロームは思った。
自分が知らない間に、知らない世界で恋人と父親が仲良くなっていたら、それは誰だって驚くだろう。
だが、二人の間に立つべき人物がいない中で会話をしても、盛り上がるものなのか?
そう疑問に思うジェロームを尻目に、ルキナはグイグイと話を押し進め、ジェロームはクロムと組んで戦うことになってしまった。
この世界に先に来ていたクロムにルキナが、
「こちらはジェローム。シンシアの恋人なんですよ!」
と、紹介された時のクロムの凍りついた表情は忘れられない。
心の準備が整っていないまま紹介されては、クロムは何も言えないだろう。
それはジェロームの方も同じで、ろくに会話を交わせぬまま今に至っている。
(何を話したら良いのか……)
空気の重さから逃れるかのように、ジェロームは地面に落ちていた小枝を焚き火の中へ放り込んでいく。
クロムも同じく小枝をポイポイと焚き火に放り込む。
お互いポイポイと小枝を投げ入れているうちに、手の届く範囲にある小枝はすべて焚き火の中へ消えてしまった。
『…………』
本格的に何もやることがなくなった二人の間を、沈黙だけが支配する。
それを破ったのは、クロムの方からだった。
「ジェローム……」
「は、はい!」
クロムの声に、ジェロームは思わず背筋を正して返事をした。
普段のジェロームしか知らない者が見たら驚きそうなぐらいかしこまった態度だが、恋人の父親と会話をする男としてはこれぐらいが普通だろう。
緊張した様子のジェロームに、ムスッとしたままのクロムが訊ねる。
「お前はシンシアのどんなところに惹かれたんだ」
「はっ……? えっ……!? シンシアのどこに……ですか……」
思ってもみなかった質問に、ジェロームは戸惑うしかない。
生死を共にした仲間にさえ言えないようなことを、まさかクロムから訊かれるとは……。
しかし父親としては知っておきたいところなのだろう。
娘の恋人が、娘のどこに惹かれたのかを……。
(すべて……とは言えんな)
ジェロームはシンシアのすべてに惹かれているが、それを答えとして言いたくはなかった。
愛する人のすべてが好き。
それは答えになっているようでなっていない答えだ。
すべてが好きという言葉は、相手が誰であっても言えてしまう言葉だから。
そんな曖昧な答えでこの場を濁すのは、目の前にいる男がシンシアの恋人としてふさわしい男か見極めようとしているクロムの視線から逃げているような気がする。
だからジェロームは、ハッキリとシンシアだけにしか感じなかった大きな魅力をひとつ口にした。
「……太陽のようなところです」
「太陽?」
その言葉に、クロムの眉がピクリと動く。
もしかしたらそれはクロムにとって気に入らない答えだったかもしれないが、そんなことはこの際もうどうでも良い。
自分がシンシアの太陽のような明るさに惹かれたのは、紛れもない事実なのだから。
「はい。シンシアの明るさは、昼と夜の区別が付かないような絶望の世界の中において、太陽としか言えないものでした。
シンシアの明るさに、皆が支えられていました。もちろん私も……。
あまりにも眩しすぎて、シンシアのように輝けない自分と比べてしまい、目を逸らしたくなるときもありましたが、今はシンシアの隣に居ても恥ずかしくないような男になりたいと……そう思っています」
幼い頃のジェロームは、高所恐怖症で飛竜に乗ることが出来なかった。
それを克服させたのがシンシアだ。
高いところが怖い。飛竜なんかに乗りたくないと泣き叫ぶジェロームに、シンシアは根気強く付き合ってくれた。
あの頃からシンシアはジェロームの憧れで、太陽で、ヒーローで、そんな彼女の隣に立つにふさわしいヒーローに自分もなりたいと願うようになっていた。
「そうか。太陽のようなところに惹かれたか……」
ジェロームの言葉をすべて聞いたクロムが、少し頬を緩ませる。
そして小さく微笑みながら、向かい合う男にこう言った。
「実は俺もな。スミアの……シンシアの母親の太陽のようなところに惹かれたんだ」
クロムのその言葉に、場の空気が和らぐのをジェロームは感じた。
空気と同じぐらい柔らかな表情を浮かべながら、クロムがジェロームに話していく。
「シンシアのような眩い明るさとはまた違うが、スミアも太陽のように暖かなやつでな……。春の日差しのようなあいつの優しさに、俺はいつも安らぎを感じていた。スミアは俺の太陽なんだ……」
「そうなんですね……」
まるで目の前にスミアその人がいるかのように語るクロムの表情は、とても優しい。
その優しい表情をジェロームに向け、クロムはしっかりとこう言った。
「だから俺はこう考えている。
愛した女を太陽と呼べる男は、信頼に値すると」
「聖王陛下……!」
クロムのその言葉は、ジェロームを娘の恋人として認めたことを示していた。
「あ……ありが……」
「今は礼はいい」
自分を認めてくれたことの礼を言おうとしたジェロームの言葉を、クロムが首を振って遮る。
「礼ならシンシアから君のことを紹介された時に言ってくれ。いつになるかは分からんがな」
この世界に誰がいつ来るのか。その法則は未だ解明されていない。
クロムの妻であるスミアでさえ、召喚されていないのだ。
娘のシンシアの召喚がいつになるのか検討もつかない。
戦いが続く世界に召喚されることが果たして幸せなのかと思ときもあるが、やはりこの世界でも己の太陽の傍にいたいと願ってしまうのだ。
「大丈夫です。いつか必ず出会えると、私は信じています。
どのような世界にも、太陽はあるのですから……」
「そうだな……」
二人はこの世界に招かれてから、様々な世界で戦ってきた。
その中のどんな世界でも、空に太陽は輝いていた。
だからクロムはスミアに。ジェロームはシンシアに。いつか必ず出会えるだろう。
どれだけ長い夜が続こうと、太陽は空に必ず昇るのだから……。